テイク ラブ

あたし…大事な時間を無駄にしちゃったんだ。


「じゃあな」



そう言って、あたしの頭に手をのせた北人の顔は少し曇っていた。


ああ…。あたしがこんな顔させちゃったのかなあ……。



「ばいばい」



掠れそうな声を必死に起き上がらせて、いつも通りに応えるあたし。



それと同時にスッと離れていく北人の手。


名残惜しくあたしの頭に残る北人の体温。



少し後ろ髪を引かれる思いだったけど、あたしは玄関へと入った。




部屋に入っても、なんだか無性にモヤモヤした気持ちになる。



白くて薄いレースのカーテン越しに、外を眺めて見ても北人の顔なんて見えるわけがない。



……明日北人に謝ろう。



「ふざけんな!意味分かんねえんだよ」


「北人!」



なに…この声。



ベランダに出て、北人の家を覗いてみる。



「……だ………っ!」



途切れ途切れに聞こえる北人の声が、怒っているのは確か。



北人が怒った所なんてここ数年見たことがないし、その声も聞いた事がなかった。



バンという荒々しい音と共に、北人が大きなカバンを肩に下げて出てきた。



すごく嫌な予感がする。


北人がいなくなっちゃうような、嫌な感じが。


「ほ…北人!」



今声をかけないと、そう思ったらベランダから声をかけていた。


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