テイク ラブ
「…沙智……」



なんでそんなに悲しそうな顔してるの?


なんで…そんなに大きな荷物を抱えてるの……?



「沙智。俺…家を出るよ」


「なに…それ……」



一瞬にして目の前が真っ暗になった。


「っそこで待ってて!」



バタバタと慌ただしく階段を下りて、玄関へ向かうとベランダから見たのと同じ格好の北人がいたことに少し安心したあたしがいた。



「なにがっ…あったの!?」



霞んでくる目が、あたし自身を情けなくする。


北人の方がきっと不安なのに…あたしが泣いたら意味ないじゃん。


でも涙は言う事を聞いてくれなくて、だんだんと目頭が熱くなってくる。



「バカ…。何泣いてんだよ」


壊れ物を扱うような優しい北人の手が、あたしの涙を拭ってくれる。



ダメだ…。何でかな、北人の事になると涙ばっかりしか出ないよ。



「姉貴が…帰って来るんだって。子ども連れてさ」



引きつったような笑いを浮かべた北人は、あたしと目を合わせてくれない。


北人のお姉さん…詩緒(しお)さんだ……。


北人と年が8つ離れている詩緒さんは、北人が小さい時から苦手で…嫌いでしょうがない人。


「姉貴がいるような家に…居れない」


「でも詩緒さんはしばらくしたら帰るんでしょう?」



出て行くなんて簡単に言わないで。


北人がいないなんて寂しすぎるよ……。


「何かよくわかんねえけど…複雑らしいから」



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