君と歩く未知
 アタシはその日結局、駅まで行けず、カズくんに会えなかった。
それどころか、竜平くんの手を拒み続け、見知らぬおばさんに助けられ警察署へ行かされた。
そこでアタシは婦人警官に…美和ちゃん以外の人に初めて、レイプされたということを打ち明けた。
話していると、その時の光景が頭の奥にフラッシュバックして何度も吐いてしまった。
でも、そんな汚れたアタシに婦人警官は優しく接してくれて、少しだけ心が楽になったような気がしている…
そうしていると、忙しい職場からお母さんが駆けつけてくれた。
お母さんは何度もアタシを抱き締めてこう謝った。
「ごめんね、気付いてあげられなくってごめんね…」
…でも、アタシは逆にお母さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
お母さんにちゃんと相談するべきだったのかな…
お母さんに心配ばっかりかけてしまっているな…
そんなきもちで胸が張り裂けそうだった。
 そして、お昼過ぎにお母さんとアタシは警察署を後にした。
外には、竜平くんがいた。
アタシが出て来るのをずっと待っていてくれたんだ。
学校にも行かず、お昼ご飯も食べず、ずっと独りで…
「弥生っ!大丈夫か?」
アタシの視線に気が付いたのか、竜平くんが顔を上げてアタシを呼んだ。
アタシはニッコリ笑って竜平くんの元にそっと近付いた…
「お母さん」
アタシはお母さんに尋ねた。
「竜平くんに謝らなきゃなんないの…手、繋いでくれる?」
お母さんは、返事をせずにアタシの左手をぎゅっと握ってくれた。
不安な気持ちが薄れていくのが自分でもよくわかった。
竜平くんの目の前に来て、アタシは一つ深呼吸をした。
そして、一生懸命頭を下げた。
「ごめんなさいっ!!アタシ…」
「イヤ、大丈夫。言わなくって良いよ。弥生がどんな目に合ったのか、美和に電話でしつこく聞いたんだ…あ、ごめんな、勝手なことして…」
アタシの言葉をさえぎった竜平くんは、一気にそこまで話して、うつむいた。
「そっか…ごめんね、本当に」
「謝るなよ、弥生は何も悪くねぇんだから…和哉とのことも、これが原因なんだろ?」
アタシはまた目に溜まってきた涙を零さないように小さく頷いた。
「ごめんね…本当に、今日はごめんなさい…」
アタシはお母さんと一緒にもう一度深く頭を下げて、その場を後にした。
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