君と歩く未知
 ドアを開けるとカズくんがいた。
アタシは笑顔でカズくんを迎え入れる…
カズくん、少し痩せたかな…?
頬の辺りが少しげっそりして見える。
本当に元気がなくなっちゃったんだね…
「弥生、体はもう大丈夫か?」
アタシはコーヒーを運びながら、頷いた。
「うん、もうずいぶん良くなった」
アタシはカズくんの横に座ると、コーヒーを一口飲んだ。
「そう…良かった」
カズくんはそう言って、アタシを愛しそうに見つめながら頭を撫でた。
 アタシはその行為に驚いた。
カズくんはアタシに別れ話をしに来たのだと思い込んでいたから。
カズくんはアタシに真剣に尋ねた。
「弥生…どうして赤ちゃんを産んでくれなかったのか、理由を教えて欲しいんだ…」
話ってこれだったんだ…
でも、アタシは答えない。
だって、カズくんの将来を考えて産まなかった、なんて言ったらカズくんは傷付いてしまうに決まってるもん。
あんなに産んでくれって言っていたのに、そんなこと正直に答えられるはずないよ…
「答えられない…」
アタシはそう言ってカズくんから目をそらした。
沈黙が重たくて、息をするのさえ困難なことに思えた。
アタシは思わずお腹に手を当てていた。
そして、ハッとして手を離した。
もうお腹には赤ちゃんはいないのに…
この間までずっと不安なときはこうやって赤ちゃんと会話したんだもの…
もうクセになってしまっていた。
カズくんはそんなアタシを見ていたのか、切なげな顔をしてアタシのお腹を見ていた。
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