君と歩く未知
 「弥生…」
カズくんはアタシの名前をつぶやいて、アタシのお腹に手を当てた。
「ここに、オレらの赤ちゃんがいたんだな…」
カズくんは涙声でそう言った。
アタシは涙を堪えながら冷たく言い放った。
「でも、カズくんの子じゃなかったよ…」
カズくんはニッコリ笑った。
「そうだね…でも、オレの子なんだ。すっごく大好だったから」
アタシは涙を腕で荒く拭った。
アタシは首をかしげてカズくんに言った。
「そんなの…おかしいよ。…それじゃあ誰でもお父さんになれるじゃない」
そんなことを言っても、カズくんは涙を流しながらニコニコ笑っていた。
「…でも、オレ、弥生が赤ちゃんできたって言った時すごく嬉しかったんだよ。驚いてすぐに産んで欲しいって言えなかったけど…嬉しかった。…こうやって、最初にちゃんと伝えれば良かったんだよな…そしたら、赤ちゃん…堕さずに済んだかも知れねぇよな」
アタシはとうとう涙が堪えられなくなって、声を上げて泣き始めた。
「違うよ…カズくんは悪くないよ…カズくんが赤ちゃんのこと、大事に思ってくれてたことアタシにちゃんと伝わってたんだよ…だから、そんな風に自分を責めないで…」
カズくんは泣きながら優しく微笑んで、首を横に振り続けた。
 アタシが泣き止むまで、カズくんは何も言わなかった。
アタシの背中を撫でてくれて、アタシの不安や悲しみや苦しみを少し心から追い出してくれた。
アタシの心が軽くなった分、カズくんの心は重くなったよね。
そう思うと、カズくんの優しさが胸に染み渡った。
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