君と歩く未知
 カズくんはアタシの手を掴んでぐいぐい引っ張る。
「カズくん…痛いよ」
アタシがそう言ってもカズくんはちっとも聞いてくれない。
美術室へ向かう道をただ無言で歩いていく…

 「ソレ、誰がやったのかわかんないのか?」
アタシは無言で頷いた。カズくんはイライラしたように言った。
「いつから嫌がらせが始まった?」
アタシが首をかしげているとカズくんは怒鳴った。
「だいだいでいい!いつからなんだよ!」
アタシは、びっくりして肩を震わせながら答えた。
「…悪口は入学してすぐくらいから…だけど、こんな酷いことされたのは今日が始めて」
アタシは涙が止まらなくなってしまった。
悲しくて、苦しくて仕方なくなった。
…あのときのお父さんもこんな気持ちだったんだろうか。
カズくんはアタシの涙に気付くと、ぎゅっと抱きしめてくれた。
この熱い中、二人ともベタベタなのに強く抱きしめてくれた。
そして子どもをあやすように背中をトントン…と叩いた。
 
 アタシはしばらくカズくんの胸の中で、考えた。
お父さんが死んで一年間、アタシはよく頑張ってきたから、そろそろリタイアしてもお父さんは許してくれるかもしれないって。
お父さんの代わりにアタシは十分過ぎるほど頑張った。
だからもう良いよって言ってくれるかもしれない。
 カズくんみたいな優しい人にも出会えたし、後悔はない。

 アタシ…もうこんな悲しいばかりの人生、やめたい…。
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