君と歩く未知
 「ねぇ、カズくん…」
カズくんはアタシから手を離してアタシの目を見た。
「大丈夫か?」
アタシはゆっくり頷いてカズくんに笑いかけた。
そして、カズくんから視線をそらした。
「カズくん…アタシさ、死んだお父さんのために生きてるの」
カズくんは黙って首をかしげた。
アタシはこの小さな部屋の窓を開けながら言った。
「こんなこと突然聞かされてもわけわかんないだろうけどさ、アタシがお父さんの全てを奪ってしまったの」
カズくんは窓辺にいるアタシの後ろに立って外を眺めた。
「だから…アタシは今までつらくてもお父さんの分まで頑張って生きなきゃって思ってたんだけど、もう一年近く頑張ってきたから…頑張るのやめたい」
カズくんはそのまま後ろからアタシをぎゅっと抱きしめた。
そして、カズくんは言った。
「そうだよ、やめなよ。弥生は弥生だろ?弥生は弥生の人生を歩けば良いんだよ」
アタシは「うん」と頷いて「もうやめる」と言って、カズくんの腕を解いた。
 そして、アタシはカズくんに手を振って、この小さな部屋を出た。

 カズくんはきっと、このアタシの「生き方」をやめろって言ったんだろうけど、アタシが言いたかったのは「生きること」をやめようっていうこと…そう、アタシはお父さんと同じことをしようとしていたんだ。
それは…自殺。
だってもうアタシはこんな悲しみ耐えられない。
「人殺し」という重荷を背負って、学校でいじめられて、暗く、寂しい毎日をただ歩きつづけるなんて…もう苦しいんだよ。

 そんな風にアタシが思っていることなんてカズくんは全く気付いていないんだろうね。
「きっと明日から弥生は明るい人間になるんだろう」ってカズくんは思っているんだろうね。
ごめんね、こんな弱いアタシで。

 アタシはその夜、自分の部屋でリストカットをした。
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