君と歩く未知
 アタシはリストカットした次の日にはカズくんに会わなかった。
 カズくんは美術室に行ったんだろうけどアタシはカズくんを避けた。あのカズくんの人間らしい優しさに触れてしまうと、きっと昨日リストカットをしたことをアタシは後悔するだろう。自分の生き方に自信を失ってしまうだろう。
 そんな風に考えながらアタシは朝、自分の教室まで歩いた。
 すると、アタシの教室にいるはずのないカズくんがなぜか教室にいて、しかもアタシのイスに座ってケータイをいじっていた。カズくんはアタシを見つけると「おう」と片手を挙げた。
「なにしてんの?人の席で」
アタシは冷たくカズくんに聞いた。
「弥生なかなか学校来ねぇから、今メール打とうと思ってたところ」
「そんなこと聞いてないんですけど」
カズくんはアタシの言葉を聞いているのかいないのか、突然パッと顔を上げた。
「そーだ!今日学校サボろうや」
アタシは思わず「はぁ?」と言った。
「いや、意味わかんないんですけど。アタシは、勉強をするために学校に通ってるの。決してカズくんみたいな不良と学校をサボったりはしないの」
だけどカズくんはイスから立ち上がってアタシの腕を掴んで走り出した。アタシは教室から引っぱり出されて、結局、そのままカズくんと玄関に向かって行ってしまった。
「カズくん、やめてよ。こんなとこ見られたら、カズくんまで嫌がらせされちゃうよ」
アタシは息を切らしながらそう言った。
「いいんだよ」
カズくんは息を切らして明るい声で言った。アタシはカズくんの手を振り解いた。
「良くないよ!」
カズくんは突然アタシが大声を上げたので、びっくりした顔をしてアタシを見た。アタシはカズくんを睨みつけながら言った。
「…昨日カズくんは勘違いしたでしょう。アタシは…もう、人生をやめたいの。この暗くて、地味な性格をやめたいんじゃなくって、人生自体やめてしまいたいの。もう死にたいの。…そんなアタシなんかと一緒にいて、カズくんのプラスになるわけないじゃない」
カズくんは黙ったままで何も言わずアタシの目を見ていた。
「だから、なかったことにした方がいいの。アタシたちのこと全部。それが、カズくんのためだよ。アタシたちなんて、最初から出会わなければ良かったんだよ」
そう言ってアタシは、昨日のリストカットの傷をカズくんに見せた。
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