君と歩く未知
 カズくんの目から光が消えた。
「ソレ…自分でしたの?」
アタシはゆっくり頷いた。カズくんはもうそれ以上何も言わなかった。
ただ、沈黙が流れているだけ…息苦しかった。
一体どのくらいの間そうやっていただろう。
永遠にこの重苦しい空気が続く気さえした。
…だけどその時、丁度チャイムが鳴り響いた。
「行きなよ、授業始まっちゃうよ。…アタシは今日は勉強する気になれないから、家に帰るね」
カズくんはぼんやり突っ立っていた。
アタシはそんなカズくんを突き放すように言った。
「今まで仲良くしてくれてありがとうね。じゃあね」
そう言ってアタシは下駄箱から自分の靴を取り出して、走って行った。

 カズくんには悪いことをしたと思った…だけど、お互いのためこの方がいいんだと思った。
アタシなんかと仲良くしたら、きっとカズくんまで同級生から変人扱いされてしまうだろう。
そんなの、アタシは絶対イヤだ。
自分の悪口よりも、カズくんの…大切な人の悪口を聞くのはきっともっとつらいはずだから。
 あれ?なんで?別にカズくんの悪口くらい平気なんじゃないの?
…だって、別に好きなわけでもないし。
…あれ?でも、なんでなんだろう。
どうして自分より…アタシ自身より、カズくんのことを心配しているんだろう。
誰かから聞いたことがある…
「自分より他人のことを大切に思い始めたら、それは恋」だっていうこと。
…でもこの感情はきっと違うはず。
…いや、お願いだから、どうか違っていて欲しい。
恋なんかすると自分がどんどん苦しくなる一方だから。

 でも、そのとき声が聞こえた。
苦しくて切羽詰ったアタシを救ってくれる、大切な人の声。
恋なんて苦しみの連発だと思い込んでいたアタシに本当の愛をくれた…
本当の恋を教えてくれた人のアタシを呼ぶ声が…

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