君と歩く未知
「実は…このマンションでついさっき、飛び降り自殺があってね。第一発見者がこのマンションの住人で、小林 浩志さん…つまり、君のお父さんだと言っているんだが…死体の本人確認をしてもらえないかな」
 アタシは目の前が真っ白になった。
体の震えが止まらなくなって思わずその場にしゃがみ込んだ。
……お父さんが…どうして…あぁ、アタシのせいだ。
アタシがあんなこと言ったから。「人殺し」なんて言うんじゃなかった。
もう、間に合わない。どんなに後悔したところで、もう元には戻せない。
時間も…言葉も…お父さんの命も…もう元に戻すことはできない。
…アタシは、なんて酷い娘だったんだろう。
確かに、あの時アタシはお母さんが死んでしまったのではないかと思っていた。
…だけど、あんな言葉を浴びせてお父さんを追い詰めなくても良かったじゃないか。
一緒に救急車を待っていれば良かったじゃないか。
「もうアタシの前に現れないで…」どんなにトゲのある、痛い言葉だったか。
アタシが、お父さんを…実のお父さんを…死に追いやった。
本当の「人殺し」はお父さんじゃなくって…アタシなんだ…。
「ア…アタシが…おとうさん、ころしちゃったの…?アタシの、せい?」
アタシはしゃがみ込んで大声で泣いた。
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