雨の日に、会いましょう。
不自然に視線を彼から外すと
「考古学は、向かって右側の本棚に並んでますから。」
とその方向へと手を掲げる。
あたしの答えに、彼は「ありがとう。」とだけ答えると、その足で向かいの本棚へと歩き出した。
それから先輩と交替で休憩を取り、束の間の休息を終えて再び勤務に戻ると、彼の姿はもう館内から消えていた。
パソコンの横に置かれた貸し出しカードの中からたった一つだけあった考古学の本を探り当てる。
男の人にしては達筆な字で
『東 瑛吉』と書かれていた。
あずま、えいきち。
何だか随分見た目と名前にギャップがあるな。
そう思いつつ、貸し出しカードを元の位置へと戻すと、再び紙の匂いに包まれた館内へと歩き出した。