雨の日に、会いましょう。
「それじゃあ、僕もあなたの名前、聞いてもいいですか?」
ひとしきり笑った東さんはにっこりと笑顔を浮かべて、あたしにそう言った。
「…片丘、麗乃、です。」
恥ずかしくて俯いたあたしに
「かたおか、よしの、さん…か。」と繰り返し名前を呟いた彼。
そして先程よりも優しい顔で微笑んだ東さんは
「宜しくね、麗乃さん。」
と小さく首を傾げた。
そんな彼に、胸の高鳴りが速まってゆくのがわかる。
ドキン、ドキン。
テンポよく、一定のリズムを繰り返す心臓。
あの日から、あたしは初めて雨という日に感謝を捧げた。
恋なんて、と思っていたはずのあたしの心が
やっとあの日から動き出す。
永い間、土深く眠ってた幼虫が蝶に孵るように。
雨が、きっと恋しくなると予感した
そんな梅雨の始まり。