好きと言えなくて
そしていよいよ桜花賞の発走時刻が近づいてきた。桜花賞だけは、正義も私も馬券を買うつもりだ。

「七枠のコレと、八枠のコレと……」

ブツブツ言いながらマークシートを塗りつぶす。

「あー、どないしよ?」

正義は、どの馬にするか決めかねているようだ。

「コレなんかいいと思いますよ」

「正義くん、ビキナーズラックに乗っかってみれば?」

社長に言われた正義は、越智さんの言う馬の馬券を買った。

いくらノリとは言え……。ひとり、モヤモヤしながら発走時刻を迎えた。


……結果……。


越智さんの予想が見事的中し、真剣に予想して外れた私と社長と宇和島さんは、呆然としていた。

しかも、万馬券。

「ああ……ビキナーズラックに乗っかったらよかった……」

「勝負の世界に『たら』『れば』はナシですよ! だから競馬は、面白いんです」

しょんぼりするふたりに、カツを入れる。

「葉子ちゃん、男前やな……」

「今度、万馬券当てたらおごって下さいね」

社長と宇和島さんにお願いすることも忘れない。

「正義くん、万馬券当てたんやから、うららちゃんにメシでもおごったりや!」

……たしかに、正義が万馬券をゲットできたのは、うららちゃんのおかげやけれど……。

「喜多さん、ぜひお願いしま~す」

あろうことに越智さんが……正義の腕に抱きついた! ノリ……と言えども……心中、穏やかではない。

「はははは……」

正義の顔がひきつり、目が泳いでいたのは、言うまでもない。


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