好きと言えなくて
いつもの店、というのは商店街のはしっこにある丼モノのお店。
老夫婦が営んでいる古い小さな店だけれど、安くておいしいから、ランチタイムともなれば連日満員だった。
夜のほうが比較的空いているので、私たちは夜に利用していた。
ガラガラガラ……と、少々建てつけの悪い扉を開ける。
「いらっしゃい!」
おかみさんの元気な声になんだかほっとする。私たちはいつも、カウンター席に座っていた。端のひと席を空けて私が座るときは『ツレが来ます』と言う合図。おかみさんはわかっているから、お茶も出さない。
しばらくすると、ガラガラガラと扉の開く音がして、ドタドタと小走りする足音が聞こえた。
振り向かなくても、すぐに誰だかわかる。
「おまたせ、葉子さん」
ナイスタイミングで、温かいお茶が運ばれた。この店は、季節問わず温かいお茶が出るのだ。
「お疲れ様」
「葉子さん、なんか怒ってない?」
「いつも私、こんなんやんか?」
「そう? 今朝もなんか……冷たかった気がした」
そりゃ、若い子に鼻の下伸ばしてたら、怒るよ。
「お腹すいた。なに食べよかな?」
私は、正義の問いかけには返さず、壁につるされたメニュー表に目をやった。
「オレ、天丼大盛で!葉子さんは?」
「親子丼」
「はいよ! 天丼大盛と親子丼!」
おかみさんがカウンターの中にいる、寡黙な旦那さんに元気いっぱいオーダーした。
老夫婦が営んでいる古い小さな店だけれど、安くておいしいから、ランチタイムともなれば連日満員だった。
夜のほうが比較的空いているので、私たちは夜に利用していた。
ガラガラガラ……と、少々建てつけの悪い扉を開ける。
「いらっしゃい!」
おかみさんの元気な声になんだかほっとする。私たちはいつも、カウンター席に座っていた。端のひと席を空けて私が座るときは『ツレが来ます』と言う合図。おかみさんはわかっているから、お茶も出さない。
しばらくすると、ガラガラガラと扉の開く音がして、ドタドタと小走りする足音が聞こえた。
振り向かなくても、すぐに誰だかわかる。
「おまたせ、葉子さん」
ナイスタイミングで、温かいお茶が運ばれた。この店は、季節問わず温かいお茶が出るのだ。
「お疲れ様」
「葉子さん、なんか怒ってない?」
「いつも私、こんなんやんか?」
「そう? 今朝もなんか……冷たかった気がした」
そりゃ、若い子に鼻の下伸ばしてたら、怒るよ。
「お腹すいた。なに食べよかな?」
私は、正義の問いかけには返さず、壁につるされたメニュー表に目をやった。
「オレ、天丼大盛で!葉子さんは?」
「親子丼」
「はいよ! 天丼大盛と親子丼!」
おかみさんがカウンターの中にいる、寡黙な旦那さんに元気いっぱいオーダーした。