好きと言えなくて
私からは求めない
おいしい丼を正義とおしゃべりしながら食べる。たいした話は、しない。仕事終わりだから、今日一日の出来事を話す。

「今日はいい天気やったから、公園のベンチでお弁当食べてん」

正義のお弁当は、夏場でなければ、私が作っていた。先に出勤する私が、他の人にバレないようにこっそりと彼のロッカーに入れていた。そして、カラになったお弁当箱をこっそりと持って帰る。

「気持ちいいし、食べたら昼寝したくなったんとちゃう?」

「それが、たまたま越智さんも公園に来てて、一緒に食べてん」

な……なにっ!?
それ……たまたまなんか?


「そ、そう……。で?」

「『で?』って、別に……」

正義が、くりくりした目で私をみつめた。

「あ、『彼女の手作りですか?』とか聞かれた」

「……なんて応えたん!?」

「『まぁね』って。へへへ」

「そう……」

さり気なく近づいたり、彼女がいるかどうか確かめたり……あの小娘……絶対、正義に気があるわ!

「あ、でも、葉子さんのことは言ってないから」

「それなら……いいんやけれど……」

「そろそろオープンにしてもええんちゃう?」

オープンにして別れるようなことになったら、職場に居辛くなるし……付き合い始めた当初から『内緒にしてほしい』とお願いしていた。

「いや……お互いに仕事、やり辛くなるで?」

「そんなもんかな?」

正義が湯呑みに残ったお茶を飲み干してから、呟いた。

「そんなもんよ」

ふたりでごちそうさまをして、店を後にした。

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