好きと言えなくて
外に出ると、辺りが薄暗くなり始めていた。今日が、一日の終わりに近づく。

「葉子さん、もうちょっと一緒にいてくれる?」

「ええよ」

私の返事に、正義が頬を緩ませた。ウソがつけない素直な正義が、愛しくてたまらない。そんなこと、口にはできないけれど、微笑むことくらいはできる。

手を繋いで、金物店のほうに戻る。駐車スペースに止めてある正義のバイクと、こっそり置いてある私の分のヘルメットを取りに行った。

そこからすぐにバイクには乗らず、公園まで転がす。公園に着いてから、バイクに跨った。私のほうから正義にギュッとしがみつけるのは、バイクでドライブするときだけ。

自分から手を繋ぐことすらできない私は、正義への気持ちを、口にしたことがない。

男らしい、がっしりとした体格ではなく、小柄で細身の正義。バイクに乗せてくれているときだけは唯一、彼の男らしさを感じることができた。正義の背中は、心地が良い。

夜景が綺麗に見える場所まで、バイクを走らせてくれた。ずっとずっとつかまっていたい背中から、そっと離れた。

「いつ見ても綺麗やな」

照れくさくて、正義に背を向け、夜景を眺める。そんな私を、正義が後ろから抱きしめる……。

「甘えてもいい?」

耳元で囁かれる。それは『セックスがしたい』ということ。正義は、そういう言葉を口にしない。

「うん」

正義に顔を向けると、優しい口づけをくれた。胸の奥から、熱くなる。

『好き』

胸のずっとずっと奥で、小さく小さく呟いた。


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