好きと言えなくて
一目惚れ
越智さんは、正義に『彼女』がいることを知りながら、モーションをかけていた。近くに『彼女』がいることを知らずに。

正義は相変わらず私を好きだと言ってくれていたし、私から求めることはなくても、ちゃんと愛してくれていた。

ゴールデンウイークも、バイクで近場に旅行に出かけて……旅先で愛を確認しあったし。

「おはようございます」

ゴールデンウイーク明け、いつものように出勤すると、越智さんが先に来て、店先を掃除していた。

「松山さん、おはようございます……あのぅ……」

越智さんが、私になにか聞きたげだ。

「なにか?」

「松山さんっていつも、事務所でお弁当食べてはるんですよね?」

事務員の私は、外に食べには行かず、ひとり事務所のデスクで食べていたが、配達もこなす越智さんは、外で食べているようだった。

「そうやけど?」

「私も一緒に食べてもいいですか? 今日、お弁当持ってきたんで」

「いいよ」

「ありがとうございます! お昼、楽しみにしています!」

越智さんはそう言うと、鼻歌を歌いながら、また掃除を始めた。

「あっ! 喜多さん! おはようございます!」

正義が出勤すると、かわいらしい、明るい声で元気に挨拶をした。

……事務所まで、まる聞こえですけども……?

「おはようございます」

しばらくして正義が事務所に来る。

「おはよう」

正義は、ロッカーのお弁当と、軽トラの鍵を持って配達へと出かける。お互い、涼しい顔をしながら……。

< 18 / 93 >

この作品をシェア

pagetop