好きと言えなくて
午後から、なんだか憂鬱な気分になりながら仕事をした。

『私……喜多さんに、一目惚れしてしまったんです……どうすればいいと思いますか!?』

薄々、気づいてはいたけれど、まさか私に相談をもちかけてくるとは……。

『彼女がいるみたいなんですけれど……好きの気持ちが抑えきれない時は、伝えていいと思いますか!?』

そんなに好きなんや? 正義のこと。

『伝えて……いいんやないかな? 当たって砕ける覚悟があれば……』

そんなふうにアドバイスをしてしまったけれど、ホンマに正義に告白するんやろうか?

それなら正直に私が彼女やねん……と言うべき?

そんな日に限って、今日の店番は正義やった。ときどき、まわりの目を盗んで事務所に入ってくる。

「こらっ! ちゃんと仕事せんかい!」

「だって……仕事中の葉子さんを、見たいから」

くりくりした目を私に向ける。胸がキュンキュンと音をたてる……。

チュッと、私の頬にキスをして

「続きは、また今度!」

そう言って、店のほうに戻っていった。

「もう!」

そう言いながらも、頬は自然と緩んでいた。キスされた頬を指で押さえると、そこだけ熱を帯びているような気がした。

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