好きと言えなくて
私は、西条さんを蕎麦屋に連れて行った。

「ここの天ぷらそばがオススメですよ」

どれもおいしいんやけれど、私が天ぷらそばを食べたかったから、勧めてみた。

「じゃあ、それで。葉子さんも?」

「私も……」

あれ? 『葉子さん』って呼んだ? 気のせいか……。

「最近、このエリアの担当になったんです。だから、あんまり詳しくなくて……葉子さんは?」

あ!?
やっぱり『葉子さん』って呼んだ!

なんで? ノリで?
ぼんやりと、西条さんの顔をみつめた。

「葉子さん?」

「え? あ、私、地元なんです! ここらへん」

慌てて応えると、西条さんが笑顔を見せる。

「地元なんですか? それなら詳しいですね」

そう言って、ススッと上品にお茶を飲んだ。そんな西条さんをチラッと見る。

「どうかしましたか?」

視線に気づかれ、気まずくてうつむいた。

「今度、改めて食事に行きませんか?」

えっ?
うつむいた顔を、パッとあげた。

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