好きと言えなくて
そんなことがあったせいで、私と正義との間に見えない壁ができてしまった。

もともと、私からは用事がなければメールや電話をしなかったし、誘うこともなかった。正義が誘ってくれなければ、デートすることもないし、メールや電話も途絶えた。

同じ職場で、しかも小さな金物店……出勤すれば、嫌でも顔を合わせなければならない。

私からなにか言えば、きっと今まで通りにできるハズ。正義は、私と西条さんの仲を誤解して、連絡をくれなくなったに違いないんやから。

あ、違う? 私がおらんでも、越智さんがいてるから、連絡くれない……ってこと?

私は……必要なくなった?

「おはようございます」

正義の声。最近、少し元気がないような気がする。

「葉子さん、おはよう」

「おはよう」

嫌でも挨拶くらいは、する。

「葉子さん、今日……」

正義がなにか言いかけたところを、邪魔が入った。越智さんだ。

「正義さん、彼女と別れてくれましたか?」

私は、知らん顔をして仕事を始めた。

「……別れてないよ」

『葉子さん、今日……』の続きは……別れ話……?

「配達、行ってきます」

正義は、軽トラの鍵を持って出て行った。

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