好きと言えなくて
「おはようさん」

従業員の最年長、新居浜さんが三月いっぱいで退社する。口は少々悪いけれど、根は優しい人で、私は大好きやった。

新居浜さんは、いつものように店の前の掃除をして、水を撒いていた。

その後ろ姿を見るのも、今日が最後かと思うと寂しくなった。

「おはようございます」

ちょっとセンチメンタルな私の耳に、正義の、元気で明るい声が響いた。

「おはよう」

私が挨拶を返すと、正義が目をくりくりさせながら、にっこりと笑った。

今も、三年前も、あどけない表情はあまり変わらない。

正義の身体が、ほんの少し大人になっただけだ。


< 4 / 93 >

この作品をシェア

pagetop