好きと言えなくて
憂鬱で、退屈な一日が終わりを迎えた。

ふたりはこれから……出かけてしまうんやろうか? 話をするふたりをチラッと盗み見た。

「お疲れ様です。お先です……」

「お疲れ様です!」

私がボソッと呟くように言うと、挨拶とともに悪魔のような笑みを返された。

なるようにしかならん。そう思い、店を出ようとした時だった。

「葉子ちゃん、ちょっとええかな?」

外は、いつの間にか雨が止んでいた。

社長に呼ばれ、後について歩いた。連れてこられたのは、店の隣にある、駐車スペース。

そこには、店の軽トラと社長の車、それから正義のバイク……。

「悪いけれど、コレ、持って帰ってもらわれへんやろか?」

社長は、ヘルメットを指差した。仕事帰りに正義とドライブするための、私のヘルメットを……。

「あの……私のじゃないです……」

「ほな、正義くんの!?」

『葉子さん!プレゼント!』

正義が新しいヘルメットを私にプレゼントしてくれたときの、無邪気な笑顔が頭に浮かんだ。

『葉子さん!』

正義の呼ぶ声が頭に響き、言葉に詰まってうつむいた。

「これは葉子ちゃんが持って帰らんと、他の子が使ってしまうんやないかな?」

「社長……」

顔をあげると社長は、いつものように穏やかな笑顔を見せた。

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