好きと言えなくて
ヘルメットを抱えたまま、トボトボと商店街を歩いた。

『今夜、正義さんをおとします』

『どうぞご自由に』

宣戦布告した小娘に強気な発言をしたけれど……。

『うららちゃん、めっちゃええ匂いする』

まんまと小娘の罠にはまって、今頃、そんなセリフを吐いているかもしれん。

「ううっ……」

止んだはずの雨がヘルメットを濡らした。違う。雨はとっくにあがり、夜空には星が煌めいていた。

こんな……こんな哀しい思いをするくらいやったら……正義に電話をしたらいいやん?

でも、もし、小娘を抱いているところやったら?

でもでも、正義が、そんなこと……できるわけがない。私と初めて手を繋いだ時、目を潤ませて

『幸せ』

そう言った正義が……。

私は、震える指先で、正義に電話をかけた。こんなにも緊張したのは、生まれて初めてかもしれない。

呼び出し音が鳴り始めた頃、ちょうどナニワヤ金物店の前にさしかかった。もう、シャッターは閉まっていた。

『葉子さん!?』


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