好きと言えなくて
「葉子さん、ごめん……」

私は黙って首を振った。

「電車には乗ったんやけれど、途中で黙って降りた。それからここに戻ってきたら、ヘルメットが無くなってた。葉子さん、ホンマに処分するつもりやったん?」

私は黙って首を振った。

「ほな、なんのために?」

「別れようと……」

……思ってない。それやのに、言いたくないことばっかり言ってしまう。

「そうか。そうやんな。オレみたいな頭の悪い配達員より、大企業に勤めてる、長身のイケメンのほうがいいよな?」

私は黙って首を振った。

「え? ほな、なんで?」

「わからん」

「わからん……って」

正義が、ため息混じりに呟いた。そして、私が抱きかかえているヘルメットを指差した。

「葉子さん、ソレかぶって!」

「えっ」

「ちょっと、お互いに頭を冷やしたほうが良さそうや……」

「わ……私は、いつでも冷静や」

「まぁまぁ、そう言わんと……乗って?」

私は黙ってヘルメットをかぶると、バイクの後ろに跨った。

正義の背中は、やっぱり居心地がよかった。この背中に、私以外の誰かがしがみつくなんて……許されへんことや……。

どさくさに紛れて、いつもよりギュッとしがみついた。正義の背中は、温かい。

やっぱり、好きや……。

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