好きと言えなくて
新人さん
マンションや、通勤途中に見かける桜の木が、一気に淡いピンクの花を咲かせた朝。

「おはようございます」

いつものように出勤すると、社長の隣に、髪をおだんごに結んだ小柄の女の子が立っていた。

「おはようございます」

女の子は、元気に挨拶をすると、私を見てにっこりと笑った。

「葉子ちゃん、今日から働いてもらう越智さん」

社長が、穏やかな口調で私に紹介をした。新居浜さんのかわりが入るとは聞いていたけれど、女の子やとは!

「越智うららです。よろしくお願いします!」

なんともまぁ初々しい。高卒なのかな?

「松山葉子です。よろしくお願いします」

「おはようございます」

振り向かなくても誰だかわかる、明るい声が聞こえた。

「正義くん、今日から働いてもらう越智さん」

出社した正義に、社長が同じように紹介をした。私が正義に視線を送ったけれど、彼はそれには気づかず、目線の先にいる越智さんを見て頬が緩んでいた。

「越智うららです! よろしくお願いします!」

ペコリとして、にっこりと微笑む。

「あ……喜多正義です。よろしくお願いします……」

少し頬を赤らめて名前を名乗る。私の心中は、穏やかではなかった。

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