好きと言えなくて
太くんの目は、真剣そのものやった。

マジ……ですか? 口の中も、喉の奥までもカラカラになって、水を飲んで潤した。太くんの顔を、怖くて見ることができない。

「葉子ちゃん、オレ……」

「わ、私……帰る!」

立ち上がってふと、前に視線を向けると、来るハズのない正義の姿があった。

「アレ? 喜多くん?」

太くんが、立ち上がって正義の名前を呼んだ。

「川之江さん……」

正義も、それに応えるようにして太くんの名前を呼ぶと、私たちのほうに歩み寄った。

「ど、どないしたん?」

動揺しているのがバレないように、とりあえず笑顔を作ってごまかす。

「夜遅いし、葉子さんが心配で……」

「喜多くんの年上の彼女って、葉子ちゃんやったん?」

「あ……あ、はい……」

状況が掴めないのか、正義は目を泳がせながら返事をした。

「葉子ちゃんとオレは、高校時代に……」

「同じソフトボール部で! 結婚式で久しぶりに再会してん!」

太くんが余計なことを言う前に、私が上からかぶせて言った。

「あ、そうなんや……」

「それより、正義と太くんは、どういう関係なん?」

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