好きと言えなくて
正義は動揺しているのか、口をポカンと開けたままだ。

「喜多くんはうちの店に、備品を運んでくれてん」

口をポカンと開けたままの正義に代わって、太くんがふたりの関係を説明する。

「店?」

「さっき名刺渡したやん?」

名刺、受け取るだけ受け取って、見てなかったわ……。

「オレ、パン屋をやってて。喜多くんが備品を運んでくれたときに話をしたら、この近所に住んでるって言うし、バイク好きっていう共通点もあって、さ。それ以来、飲み友達」

「あ、そうやったんやぁ!」

ははは、と、作り笑いを浮かべて、ふたりの顔を交互に見た。

「ほな、今度、三人で飲みに行こか?」

「えっ……」

太くんの提案に、なぜか正義は困惑顔。

「また機会があれば……。ほな、今日は遅いし、また……。正義、心配かけてごめん。ありがとう」

ふたりにそれぞれ言葉をかけると、私は、逃げるようにして駅へと向かった。

まだ、胸はドキドキしていた。

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