好きと言えなくて
その日の夜、私はいつもの店で、正義が来るのを待っていた。カウンター席の端をひと席空けて……。

ガラガラガラ……と、少々建て付けの悪い扉の開く音がした。

「おまたせ、葉子さん」

正義が、カウンターの端の席に座った。

「お腹空いた。なに食べる?」

ふたりで壁にかけられたメニュー表に視線を送った。

「うーん……親子丼」

えっ? 正義が、親子丼!? いつも天丼かカツ丼の正義が? しかも……大盛じゃないん? 私は、メニュー表から正義に視線を送った。

「葉子さんは?」

「あ……温玉つくね丼……」

「はいよ! 親子丼と温玉つくね丼!」

おかみさんがカウンターの中にいる、寡黙な旦那さんに元気いっぱいオーダーした。

いつもとなにも変わらない光景やけれど、正義が、親子丼って……。
やっぱりヘンやと思った。

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