好きと言えなくて
「今日、正義が誘ってくれて、ちょうどよかったわ。話したいことがあって」

うららちゃんの寿退社のこと、正義にも話しておくように社長から言われていたからだ。

「な、なに?」

正義は、なぜか不安気な表情を浮かべている。気になりつつも、話を進めた。

「寿退社、するねん」

「えっ!?」

正義が、急にガタンと立ち上がった。その拍子に小さな木製の椅子がパタンと倒れた。

「そ……そんなに驚かんでもいいやん?」

「お、驚くなというのがおかしいやん? 相手は……誰?」

「西条さん」

「い、いつの間に……」

「宇和島さんも同じこと言うてたわ」

「葉子さんは、なんで笑ってられるん?オレは……どうなるん?」

ケタケタと笑うと、正義が私を睨みつけるようにして、言った。

「大丈夫やって! うららちゃんの代わりは雇うみたいやし、新しい人が来るまでは大変やけれど、社長もフォローしてくれるし……」

「へ? うららちゃん?」

間の抜けた声で言う、正義。

「は? うららちゃん以外に、誰が寿退社すんのよ?」

正義は、はぁーとため息をつくと、倒れた椅子を起こし、ペタンと座った。

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