好きと言えなくて
バイクの後ろに跨り、正義にぎゅーっとしがみついた。やっぱり、正義の背中は心地いいわ。

バイクは、いつもの夜景が綺麗な場所に到着した。

「今夜も、綺麗やなぁ」

私は、わざと正義に背を向けた。そして、正義からのハグを待つ……。ドキドキ、ドキドキしながら。

「正義?」

ハグをしてくれない正義に、待ちきれなくて振り向くと、夜景も見ずに俯いていた。

「どないしたん? 正義、体調悪い?」

「ううん」

「ほな、なんで?」

正義が顔をあげて、私をみつめる。暗くてハッキリとは見えないけれど、泣いているようにも見えた。

「正義、なんかヘンやで?」

「オレ……自信がない」

私のほうから正義に歩み寄ると、ひと呼吸おいてから、呟いた。

「自信がない……って、なにが?」

「葉子さんを、幸せにできるかどうか」

私を幸せにできるか……って? 幸せにしてもらわんでも、正義がいてくれるだけで、幸せやのに。

「そんなん、ふたりで幸せになったら、ええんちゃう? そんなに気負わなくても」

「そっか……」

「もしかして、それで悩んでた?」

正義は、私との将来を真剣に考えて悩んでたのか……そう思うとうれしくなった。でも、その気持ちを素直に伝えられるハズもない。

「そんなん、悩まんでええ。あほやな、正義は!」

私は、軽く口走った。正義の気持ちも考えずに。

< 72 / 93 >

この作品をシェア

pagetop