好きと言えなくて
「よ、葉子ちゃん、どないしたんや?」

タイミングよく社長がやってきて、慌てて私を止めた。

「……すみません……社長……」

正義が社長に謝って、床に散らばったものを拾い集めた。

私には……謝らんのか……。

「ケンカするほど仲がいいって言うけれど、ここではやめてや」

「はい……すみませんでした」

謝る正義を睨みつけたまま、私は、謝らなかった。そもそも、正義がおかしなこと言うから悪いんやで!?

「葉子さん」

社長が事務所を出てから、正義が、落ち着いた口調で私を呼んだ。

「なに!?」

それに対して、私は強い口調で返した。

「もし葉子さんが……川之江さんとやり直したいなら……オレはそれでもかまへんから……」

「は……? 正義、なにを言うてんの!?」

背を向けた正義に、怒鳴りつけるように聞いた。

「別れても……いいって……」

正義……もしかして、私と……別れたいの? 太くんのことを口実にして、私と別れたいと思っているの? だから昨日、私を抱いてくれへんかったんや……?

「わかった……別れよう!」

私は、正義の顔も見ずに事務所を飛び出した。

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