好きと言えなくて
「その言葉を聞いて、安心した」

「は?」

思わずパッと顔をあげる。正義の表情が柔らかくなり、細い指で私の涙を拭った。

「葉子さんは、ホンマに好きな人に『好き』やなんて、口にできへん人やから」

悔しいけれど、見透かされてる。

「川之江さんからずっと聞かされててん。『高校時代の彼女が忘れられへん』って。葉子さんがオレの彼女と知ってから、川之江さんに言われたことがあって」

正義はお茶をひと口飲むと、ふぅーっとため息をついた。

「『恋愛は弱肉強食や。オレは、容赦せーへん。葉子ちゃんを奪うから』って。あんなイケメンから言われたもんやから、すっかり自信をなくして……」

「そやからって『別れてもいい』やなんて……」

涙声でボソボソと呟く。

「だって、葉子さんの気持ちが……川之江さんに傾いてると思ったから」

「あの夜、ちょっと話しただけで、傾くわけあらへんやろ?」

鼻をすすりながら、呟く。

「でもふたり……雰囲気よかったから」

たしかに、太くんがイケメンになっててドキドキはしたけれど……。

「私は、やっぱり……」

「やっぱり……なに?」

お互い、目を涙で潤ませながらみつめると、どちらかともなく唇を重ねていた。


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