嘘つきなポーカー 1【完】
「お前があいつに味わわせた痛み、俺が代わりに味わわせてやってもいいよ?」
そう言って奈津子を睨む薫の瞳は、氷のように冷たく、ナイフのように鋭かった。
奈津子は何も言い返すことができず、ただ薫の目を見つめていた。
その瞳からは涙が何粒も流れ落ちていた。
「やめときなよ、小野寺薫。」
凍った空気を破ったのは、由佳の一言だった。
「もういいよ、別に。」
由佳は松葉杖を引き寄せ、よいしょと立ち上がった。
全身がズキズキと痛んだ。
腕や足からは血が流れ、非常階段の踊り場には由佳の鼻血であろう真っ赤な血がぽたぽたと落ちていた。
「それに、遠藤さんだってあんたのそんな目、見たくないと思うよ。」
由佳のその言葉に、薫は奈津子の胸倉を掴んでいた手を放した。
その瞬間、奈津子はその場に泣き崩れた。
それを慰めるように、取り巻きが周りを囲んだ。
そして嗚咽を上げながら号泣する奈津子を連れて、その場から去って行った。