嘘つきなポーカー 1【完】


それから毎日1回、由佳のもとにケイと名乗る男から電話がかかってきた。

最初は迷惑そうにしていた由佳だったが、いつの間にかケイとの会話を楽しむようになっていた。

ケイは自分の身元に関する質問には真面目に答えてくれない。
だから由佳はケイがどこの誰だかも分からなかった。
年齢も分からなければ、住んでいる場所、顔も知らなかった。

唯一分かる情報と言えば、電話越しに聞こえてくる声だけだ。
どこかで聞いたような声な気もしたが、気のせいな気もした。


由佳はケイと色んな話をした。
夕飯のメニューや、今何しているか、なんて他愛もない話から、人間について、宇宙について、なんていう難しい話もした。

ケイと話しているのはとても楽しかった。
ケイは何も考えていないようで、誰よりも物事を奥深くまで考えている人間だと話していて思った。
そして、頭の良い人間だということも話していて何となく分かった。


ケイと話していると不思議と時間が過ぎていた。
そして、ケイと話していると自然と笑顔になれた。


いつの間にか由佳にとって、ケイとの電話の時間が1日のちょっとした楽しみになっていた。

少し不思議な関係ではあるが、ケイは由佳にとって初めての、何かを語り合える人間だった。
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