嘘つきなポーカー 1【完】
由佳は教室を抜けて、ある場所に向かった。
少し前、鞄を隠されたときに見つけたあの非常階段だ。
あの日以来、由佳は何度もこの場所を訪れた。
この場所はとても静かで、人も来ない。
由佳にとって校内で唯一安らぐことのできるお気に入りの場所だった。
どうせ保健室に行っても、怪我の理由を説明すれば面倒になるだけだ。
由佳は非常階段の踊り場に腰を下ろした。
季節は梅雨に入っていた。
外の天気は雨だったが、この非常階段にはラッキーなことに屋根があった。
口の中には相変わらず血の味が広がっていて、少しズキズキと痛んだ。
由佳は携帯を手に取り、アドレス帳を開いた。
そこには母の名前と、そしてもう1人、『ケイ』の文字が表示されていた。
少し前に由佳はケイからアドレスを教えてもらい、毎日メールをしているのだ。
『今、何してる?』
由佳がそう送った数分後に、ケイから返信が来る。
『学校にいる。お前は?』
由佳はすぐさま携帯を手に取り、少し考えてから返す。
『今、授業中だよ。』
由佳はケイに、自分が学校でいじめられていることを言っていなかった。
隠していたわけではないが、何となく言わないほうがいいかなと思ったからだ。