嘘つきなポーカー 1【完】
すると、薫は大きく拳を振り上げたと思うと、恭平の顔に向かって振り下ろした。
恭平は全てを諦めたように目を閉じた。
だが、恭平の顔に当たる寸前で、薫は手を止めた。
覚悟していた一撃が来なかった恭平は、ゆっくりと目を開いた。
「…どうして殴らない?」
恭平の言葉に、今までずっと黙っていた薫がようやく口を開いた。
「本当はお前をボコボコにしてやりたくてたまんねぇ。だけどな、これは俺からのお詫びとお礼だ。」
薫はそう言うと、恭平を押さえていた腕の力を緩め、恭平の上から退いた。
「昔から、そばで笠原を見守ってくれてありがとう。笠原を白龍の襲撃から守ってくれてありがとう。悪かったな。」
薫はそう言い残すと、血に染まった脇腹を押さえてよろよろと立ち上がり、その場からそっと立ち去った。
恭平はそんな薫の後ろ姿を見つめながら儚げに笑って、小さく呟いた。
「…やっぱり君には一生勝てないな。」