嘘つきなポーカー 1【完】
「…もう忘れてよ、その時のことは。」
由佳が呟くと、薫は笑った。
「そう簡単に忘れねぇよ。あんなに面白いこと言う奴のことなんて。」
「あんたが小野寺薫だって知ってたら、何も言わなかったのに。」
「何でだよ。」
「私、小野寺薫ってなんか嫌いだった。」
「ひでぇな。こんなに完璧な男はどこにも居ないだろ。」
「だから、嫌いだったの。何でも完璧で、いつも誰かが周りにいて。あと、真面目に授業聞いてるふうに見えないのに私より頭が良いところもムカついた。」
その時、由佳はふと思い出す。
今目の前に置かれている、送り主の分からないノート。
「ねぇ、今日の生物の授業って、カエルの受精卵の説明した?」
由佳が電話の向こうで何か言う薫の話を遮って言った。
「え…そうだけど。何で知ってんの。ってか俺の話聞けよ。カエルの受精卵はどうでもいいから。」
「いや、それがさ。ノートが届いたんだよね。今日の授業範囲のものみたいなんだけど。でも送り主が誰か分からなくて。まさかとは思うけど、あんたじゃないよね?」
由佳が尋ねると、薫は「いや、違う。」と否定した。