嘘つきなポーカー 1【完】
由佳が薫から鞄を取り返そうと手を伸ばした時、松葉杖が由佳の手から離れた。
カランと音を立てて地面に転がる松葉杖。
そしてそれと同時に由佳はバランスを崩す。
あ、倒れる――…。
由佳がそう思った時、何かが由佳の体を間一髪で支える。
「…っぶねぇ。」
由佳は薫の腕に支えられ、どうにか倒れることなく済んだらしい。
「だからこんなんじゃ1人で何も出来ねぇだろ。」
「……。」
あまりにも近くにある薫の綺麗な顔と、そしてぴたっと密着した身体に、由佳は思わず硬直して黙り込んだ。
「ほら、行くぞ。」
薫はそう言って由佳の身体を離すと、ゆっくりと自転車を押して歩き始めた。
由佳の鞄は薫の自転車の籠の中だ。
「ちょ、ちょっと待って!」
由佳は薫に付いていく他はなかった。