嘘つきなポーカー 1【完】
薫は由佳のペースに合わせながら、ゆっくりと自転車を押しながら歩いてくれた。
少し前を歩く薫の大きな背中を見ながら、由佳は黙って歩いた。
時々薫は「大丈夫か?」などと後ろを振り返っては、由佳のことを心配した。
確かに、まだ危なっかしい足取りの由佳にとっては、心配してくれることは有難いと言えば有難かったのだが―…。
「ねぇ…すんごく見られてるんですけど。」
学校の近くに差し掛かり、同じ学校の生徒の数が増え始めるにつれて、由佳たちに向けられる視線の数も増えていた。
皆、由佳たちのほうを見ては、友達とこそこそ耳打ちをしながら話している。
無理はない。
由佳の隣にいる男、小野寺薫は、学校で一番有名なイケメン。
一方由佳は、地味で陰気ないじめられっ子だ。
「あ?」
当の本人は、何も気にする様子もなく、呑気にあくびをしながらそう言う。
「だから…あんたのせいで私がすごく視線を浴びてるの。どうにかしてよ。」
「どうにかしてと言われましても、俺の輝くオーラを消すことは不可能かと。」
ふざけたようにそう言う薫に、由佳は呆れてため息をついた。