嘘つきなポーカー 1【完】
由佳が全力で松葉杖を使って逃げる横を、長い足でスタスタと余裕そうに追いついてくる薫に腹が立ち、由佳は薫を思い切り睨み付けた。
「いい加減にしてよ。」
由佳が冷たくそう言い放つと、薫は足を止めた。
ようやく諦めたか…――!
由佳は心の中でガッツポーズをすると、薫から離れるためにまた全力で歩き出そうとした。
その瞬間、手首を後ろから引かれる感覚がして、由佳はよろけて後ろに倒れこんだ。
「なぁ、お前、俺の要望聞くって言ったよな?」
由佳の頭上すぐで聞こえる薫の声、背中に感じる温かく硬い感触。
由佳はすぐに、自分が薫の胸の中にすっぽり収まっている状態であることが想像できた。
「………。」
「聞いてんの?」
「…はい。」
顔を上げるとすぐ上に薫の顔があることが想像できたので、由佳は容易に顔を上げることが出来なかった。
その時、何やら周りがざわざわしていることに気づいて由佳ははっと辺りを見回した。
そこには、密着する由佳と薫の姿を見て指をさしながら何かを言い合う人たちで溢れていた。
「…わかったから…早く離せ!!!」
由佳は周りから痛いほど感じる視線に耐えかねて、思いっ切り叫んだ。