優しくないっ、優しさを感じない!
1.

素敵な思い出ほど、やっぱり大きい





壇上に上がった彼は、真っ直ぐに手を上げて、背筋の良いピンと張った背中をあたし達に堂々と見せつける。


『宣誓!我々、選手一同はーー…』


それは、凛として力強く響き渡る声だった。その声があたしの中へと入ってきた瞬間、あたしは目の前がぱぁっと開けたような、そんな感覚を覚える。

体育館内に籠る夏の蒸し暑さも、外のセミの騒がしさも、隣の生徒達の囁く私語の声も関係ない。その瞬間のあたしは、彼の堂々たる宣誓に全ての感覚を引き込まれたんだ。


『…ーー 中村 コウスケ!』


そう彼は自分の名前を告げて、そこで宣誓は終わった。壇上からおりて脇の幕の向こうへと消えていく彼ーー中村 コウスケ。


『……』


瞬きも忘れていた。その後に続いた壮行会での校長の言葉なんてこれっぽっちも耳に入らなくて、あたしの中にある言葉はたった一つだけ。


『……カッコいい…』


なんて、人目もはばからずに呟いてしまった程、あたしはその一瞬で心を鷲掴みにされた。頭の中にはさっきの宣誓姿が焼き付いていて、凛とした声が今尚響き渡る。こんなの、生まれてこのかた15年、初めての経験だった。



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