優しくないっ、優しさを感じない!


そして、「あともちろん俺の事も!」なんて言うと、ニカッといつもの無邪気な笑顔を残して、コースケはグラウンドの方へと走って行ってしまった。


コースケがいなくなると、その場に残されたのはあたしとレナちゃん、そしてなんとも言えない爽やかで穏やかな空気感。


「…ヒロちゃん」


かけられた声に「うん?」と、どこか余韻にひたる気分のあたしが答える。するとレナちゃんは何の迷いもためらいも無く言った。


「中村君って、かっこいいね」

「…うん」


レナちゃんの言葉に、あたしはただ頷いた。あたしの目に映る隣のレナちゃんも今、あたしと同じような表情をしていたからだ。それがあたしは…なんだか心地いい。


同じ時に同じ事を感じられる事、それが嬉しかった。そしてそれを二人があたしに対して抱いてくれた事もすごく嬉しかった。あの時はあんなに嫌だったのに、今はそう思われている事が嬉しい。何故かものすごく嬉しくて、胸が穏やかなそれと反してドキドキしている。


レナちゃんに迷い無く言ってもらえた事。そしてそのレナちゃんの言葉にコースケが同感して、共感してくれた事。

レナちゃんがああやって言ってくれたから、だから気がつけたのだろうか。その思いはやっぱり特別で尊いものだという事に。そんな想いがレナちゃんはもちろん、コースケからもあたしに向けられているという事は、とても幸せな事だという事に。


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