優しくないっ、優しさを感じない!
あたしは人混みを掻き分けて進藤の元へと向かった。急がないと、早く捕まえないと、進藤の事だ。あたしなんか置いてさっさと行ってしまうかもしれない。
「進藤…っ!」
やっとの思いで辿り着いた進藤の腕をあたしは掴む。絶対どこにも行かせない、そんな気持ちでいたから思いの外グッと、手に力が入ってしまったと思う。
「…何?やけに必死になって」
進藤は怪訝そうな顔をした。そしてあたしに向けられた視線を、スッとあたしに掴まれている右腕へと移動させる。
「あ、いや…これはその、進藤がどっか行かないようにと思ったらつい…」
「どっか行かないように?」
「あ、あはは。痛かったよね〜、ごめんごめん」
慌ててパッと離したあたしは、手をひらひらと振って謝った。ここでご機嫌を損ねるわけにはいかない、こんなタイミングで会えたのは奇跡だ。ぜひ聞きたい事も聞いてもらいたい事も、なんだか沢山あるんだから。