優しくないっ、優しさを感じない!


ーーコースケと別れたあたし達は教室内に入り、席に戻った。

まぶたの裏にはまだ、コースケの表情が焼き付いている。



「中村君って良い人だよね。本当に貸してくれると思わなかった」


……良い人なら貸してくれるでしょ。じゃあ本当のところはどう思ってたの?


「しかもこんなに早く!一昨日話してた事なのに」


一昨日も会ってるんだ。結局夏休みはどれだけ一緒に居たんだろう。そんなに頻繁にコースケと会うようになって可笑しいと思わないのかな。


「中村君ってヒロちゃんが言ってた通りな人だなぁって話す度に思うんだ。悪い所が見つからないよね、いつもニコニコ元気だし、明るいし、優しいし」


…あたしが知ってるコースケとレナちゃんが知ってるコースケは違うよ。

コースケは優しい。でも…あんな風にはあたしには優しくない。あんな表情であたしを見ないし、あたしの事を知ろうともしてくれないし、あたしの表情に見惚れたりなんかしない。


「なんであんなに優しいんだろうね、中村君…」


……それは…


それは、好きだからだよ。



コースケがレナちゃんを、好きだからだ。


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