優しくないっ、優しさを感じない!
見えなかった。見ようとしなかった
…コースケ。
名前を呟いたのは、心の中でだけだった。
声は、出なかった。
…なんで?どうしてあたしに…?
嬉しい気持ちもすごくある。飛び跳ねるようないつも通りの喜びも…でも、それ以上に今は訝しむ気持ちが強い。なんだか少し怖くすらある。出ても良いものなのかと、警戒心がやたら疼いてる。…でも、選択肢は一つしかない。
「……」
ゆっくりと、伸ばした手。
結局あたしは通話機能を繋げていた。切れる前に出ないと、はやく出ないと、なんて気持ちがやっぱりあった。無視するなんて気は、これっぽっちもあたしの中にはなかったんだと気が付いた。
「…もしもし」
そして、そっと耳をやって囁くように電話に出る。もしかしたら声が震えちゃうかも…なんて思ったけど案外平気なもんで、思ったよりも落ち着いた声色でその言葉を口から出す事が出来た。…うん、電話越しで良かった。これならきっとバレないだろう。
『あ、ヒロ!おまえ大丈夫か?』
すると聞こえてきたのは、もちろん彼の声だった。いつも通りのその声は、今の今まで考えていたコースケ本人の声。それが耳に入って来た瞬間、あたしは…なんだかすごく、すごく切ない気持ちになる。