優しくないっ、優しさを感じない!


ダメだと分かってはいつつ、気付いてしまったそれを抑え込む事なんて出来なかった。結局言ってしまった…言うしかなかった。だって知りたかった。どうなろうと知りたいって思ってしまったあたしがいた。でもやっぱり聞いてはいけなかったと後悔するあたしもいる訳でーーそんなあたし達が口にした後に願う事は一つ。


それって進藤に…だよね?

進藤だって言って…っ!


そんなの、今更だった。今更の儚い願い。あり得ない願望。そう、あたしは分かっていた。分かっていて、分かっていたのに聞いたんだ。…だから、


『霧野さんだよ。昨日の帰りに会った時言ってたから』


…告げられたそれ。願っていたものとは違うその名前。

だけどその衝撃は、思っていたものよりもそれほど大きくは無かった。予想通りの真実はやっぱりなと、心の中にストンと落ち着いてみせる。


…分かってたよ。

分かってた、もう分かってた。


でもやっぱり…その名前を、言って欲しくはなかった。


ーーそう再確認した、途端にだ。


落ち着いていたはずのそれが、うずうずと疼き出す。その場所がじくじくと痛み出す。

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