優しくないっ、優しさを感じない!
この人が言う事を聞いてみたいって、この人だったらどう思うんだろうって気になるんだと思う…良い意味でも、悪い意味でも。だからそういう時は思い浮かぶんだ、この人の事が。
『…自分の知らない自分が居るって言ったな。そんなの初めてだって』
「…うん。だから分かんなくなっちゃって」
『まぁそれが普通だよ。むしろ今までが可笑しい…というか、凄かったんだと思う』
「…え?」
『それって、おまえはずっと自分の中の想いに真っ直ぐ生きてきたって事だろ?自分の想いを全部受け止めて、嘘をつかずに、真っ直ぐ信じて生きてきたって事だ』
「……」
…確かに、今まであたしはずっと思いのままに生きてきた。思った事は口にするし、思い立ったらすぐ行動に移すし。逆に言うなら自分の想いに逆らえない、そんな自分だったと思う。
自分に嘘をつく事なんて確かになかったんだ、ここ最近の出来事が起こるまでは。だからあたしは悩んだ。自分ともう一つの自分、どちらかに嘘をついていかなきゃならなくなるなんて耐えられないと思ったから。選びたい自分が分かってるのに、どうしてもそれを捨て去る事も出来なかったから。
『人は大なり小なり自分に嘘つくもんだと思う。でもおまえにはそれが無かった。だからおまえはいつも真っ直ぐに突っ走れてた、そこに迷いなんてなかったからな。前にも言ったけどそれはおまえの凄い所だと思うよ、普通なかなかそうはいかない』
「…嘘を、ついちゃうから?」
『あぁ。というか、自信が無くなるんだ。自分を信じる、貫き通す自信が。それで結局自分に嘘をつくようになって、自分の中の自分って形がだんだんと変わっていく』
「……」