優しくないっ、優しさを感じない!
***
「……あ」
思わずもれた声に、慌ててあたしは口に手をやった。気づかれたくなかった。
…誰にかって、それはもちろん。下校時の今、訪れた駅のホームに先に到着して電車待ちをしている目の前の人物。あたしが今、最も出会いたくない人物。むしろ思考からも綺麗さっぱり排除したい人物。
ーー進藤、タケル。
気づくなよ…気づくなよ…と、あたしは心の中で念じながらそうっと足を進める。進藤が思いの外手前の位置取りな為、すれ違いは不可避だ。だから一番は気づかれない事なんだけど…
「何?シカト?」
「へ⁈ あ、いやぁ〜…」
後ろを通り過ぎようとした瞬間、前を向いていた進藤から視線と共に声を掛けられた。…やっぱり、そう簡単にはいかないらしい。
「き、奇遇ですね、まさか同じ時間の電車とは…」
とりあえず出来る限りの笑顔を顔に貼り付けて、渋々進藤の隣に立つ。…やばい、またそわそわして来た…というか、なんかぐちゃぐちゃで頭の中が気持ち悪い…
「…そうだね。おまえにしては早い帰宅だもんな」
「そう、あたしにしては早い時間だから、会うのは珍しい…ん?早い?」
指摘されて、気がついた。そういえばあたし、今日はいつもより早いかも。あれ?何かを忘れてる気がする。何か忘れてそのまま帰ってきた気がする…あれ?もしかして、
「俺の事で頭一杯で、中村の事忘れてた?」
「!」
ニヤリと笑う奴が告げたその言葉。…図星だ。まさにその通りだ。