優しくないっ、優しさを感じない!
あたしの声かけに反応した奴は、ケロリともういつも通りの嫌らしい表情へと戻っている。
まるで何事もなかったかのように…って、何って!
「ちゃんと聞いてた?あたしの話!」
「聞いてたよ」
「だったらなんでよ、なんで急にそんな、」
「いやね、なんかもう上手くいきそうでいかない展開が面白くて」
「…は?て、展開?面白い?」
そう尋ね返すあたしに向かって奴は、ニッコリ笑って「そう、展開」なんて、余裕綽々といった様子で答えてみせる。涼しげに、お手本のような笑顔を貼り付けて……貼り付けて?
あれ?と、あたしがその違和感に気がついた、その時だった。
奴の足が、あたしと奴との距離を詰めて、あたしの上に影を落とす。
「俺はおまえの事特別だと思ってるし、特別扱いしてきたつもり。なのになんでこんなに伝わらないんだろうね」
ーーそれは、やたらと近い場所で聞こえて来た声。気づけばあたしの顔の横ーー耳元に、奴の口があった。
「からかった事なんて無いよ。でも…おまえは中村が好きだから、それ以外は認めようとしない」