優しくないっ、優しさを感じない!



「あたし嫌われちゃった、どうしよう、もうダメだよ、きっともう、」


“ダメだ” その単語がグルグルあたしの中で巡ってる。それがどんどん増えていく。


「あたしは進藤ともう、前みたいに戻れない…っ!」


…それは正に、ダメだと思う理由。もうダメだと思うのはこれがあったからだった。そしてそれを口に出したのはーー今この瞬間が、初めてだった。

グルグルグルグルしていたダメだの言葉。それに寄り添いながら同様にどんどん増えていっていた想い。その原因を初めて口にしてみると…それに続くように、それはまるで洪水のように勢い良くあたしの奥底から押し寄せて、あふれ出してきた。


「怖いんだっ、進藤に嫌われたらもうなんか、怖くなっちゃってダメなの。なんか変で…なんかもうダメだって、もう無理だって、そればっかりになっちゃって、他の事何にも考えられなくなっちゃって…もうあたしは無くしちゃったんだ。無くなっちゃって、それでもう、だからもう…」


ーー感じる寒気に震える。でも本当に身体が震えている訳じゃない。実際に寒い訳じゃない。それは高い所から落ちた時に感じる、中にあった何かを置いて外側の身体だけ落ちて行くそうな、ついていけないそれのせいで感じるゾクリとする寒気のような、そんな感覚にあたしの内側が震えた。

置いてきた。そこに大切な物を置いてくる事になってしまった。今まであたしが居たのは高い所だったんだ。もっと高くて清々しくて明るいーーそんなにいい環境に居たなんて、今まで気がつかなかった。落ちてしまった今だからこそようやく気づく、その素晴らしさ。…そして、だからこそ余計に感じる、もうそこには戻れないという絶望感。

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